相続人の「欠格」と「廃除」―相続できないケースを整理

「放蕩息子が借金の肩代わりを迫って暴力を振るう」
「長年音信不通で、親の介護もしなかった子供に、財産なんて渡したくない」

こういった悩みを持つご家庭もあるかもしません。しかし、日本の法律では、どんなに親不孝な子供であっても、原則として「遺留分(最低限の取り分)」が守られています。遺言書で「長男には渡さない」と書いても、遺留分を請求されれば支払わざるを得ないのが現実となります。

しかし、例外的に「相続人の権利そのものを剥奪する」強力な制度が2つあります。それが「相続欠格(けっかく)」「相続廃除(はいじょ)」です。この記事では、この2つの制度の実態について解説いたします。

目次

1. 【結論】「自動的」か「裁判」か

どちらも「相続権を失わせる」効果は同じですが、そのプロセスと要件が決定的に違います。

制度 発生の仕組み
相続欠格 犯罪や遺言書の偽造など、決定的な悪事をした場合に、手続きなしで自動的に権利を失う。
相続廃除 虐待や侮辱など、親に対する非行があった場合に、家庭裁判所に申し立てて権利を奪う。

2. 相続欠格(けっかく)の要件

民法で定められた以下の行為をした場合、その瞬間に相続人ではなくなります。本人の意思や親の意思は関係ありません。

  • 故意に被相続人(親など)や他の相続人を殺害し、刑に処せられた場合。
  • 詐欺や強迫によって、遺言書を書かせたり、撤回させたりした場合。
  • 遺言書を偽造・変造・破棄・隠匿した場合。

*自分に不利な遺言書を見つけてシュレッダーにかけたり、隠したりしたことがバレると、その瞬間に相続権を失います。

3. 相続廃除(はいじょ)の要件

こちらは、犯罪まではしていないけれど、親に対してひどい仕打ちをした場合です。

  • 被相続人に対する虐待。
  • 被相続人に対する重大な侮辱。
  • その他の著しい非行(ギャンブルでの多額の借金、反社会的勢力への加入など)。

【手続き方法】
・生前に行う: 親自身が家庭裁判所に申し立てる。
・遺言で行う: 遺言書に「長男〇〇を廃除する」と書き、遺言執行者が死後に申し立てる。

【富士・富士宮の実務メモ:想定事例】

「長男の素行が悪く、勝手に親の預金を持ち出して使い込んでいる」「家業を継いで欲しいが子供は頑なに拒否している」といったお悩みなどについて、「これで廃除できるのか?」。

現実を申し上げますと、廃除のハードルは極めて高いのが実態です。

静岡家庭裁判所(富士支部)においても、単に「仲が悪い」「一度暴言を吐かれた」程度では認められないケースがほとんどかと思います。継続的な暴力があったり、親の財産を食い潰して生活を脅かしたりするレベルの非行が必要で、認められるのは全体の数%程度といったイメージになるかと思います。

安易に廃除を期待するよりも、「遺言書」で他の兄弟に財産を移し、さらに「生前贈与」で相続財産そのものを減らしておく方が、現実的な対抗策になるかと思います。

4. 相続税への影響(代襲相続)

ここが重要な落とし穴です。もし長男が「欠格」や「廃除」で相続権を失ったとしても、長男に子供(孫)がいれば、その孫が「代襲相続(だいしゅうそうぞく)」をします。

つまり:

  • 長男本人: 貰えない。
  • 長男の子供(孫): 長男の代わりに貰える。

「長男の家系には一円も渡したくない」と思っていても、法律上、罪のない孫の権利までは奪えません。また、廃除された場合、基礎控除の計算上の「法定相続人の数」にはカウントされなくなります(代襲相続がある場合はカウントされます)。

5. まとめ

「廃除」は、感情的には納得できても、法的に認めさせるのは至難の業です。親不孝な子供への対策としては、以下の合わせ技で対抗するのが、実務的な解決策となります。

  1. 遺言書で「相続させない」と明記する。
  2. 付言事項(手紙)で、これまでの非行を具体的に書き記し、遺留分請求を躊躇させる。
  3. 生前に他の兄弟へ財産を移しておく。

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この記事を書いた人:能登路 哲也
(のとじ税理士事務所所長 / 公認会計士・税理士)

富士市・富士宮市エリアで相続税申告・生前対策・事業承継を中心とした資産税業務に注力する専門家。資産税のプロフェッショナルとして、地域のご家族一人ひとりの状況に寄り添った親身なサポートを大切にしております。

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