【ご相談事例】遺産分割が進まない実家。自分の「相続持分」だけを他の相続人へ譲渡する場合の税務
お客様からのご相談内容
約10年前に父が他界し、現在は父名義のままとなっている実家に母が暮らしています。相続人の数が多く、遺産分割協議が全く進まないため、名義変更ができずにいます。
私自身も法定相続分としての持分を有していますが、これを他の相続人(母など)へ無償、または少額で譲渡したいと考えています。
このように自分の持分だけを譲渡する場合、贈与税の課税対象となるのでしょうか?また、もし対象になるとすれば、不動産の評価額はどのような基準で計算されるのか教えてください。
公認会計士・税理士の回答
ご相談ありがとうございます。遺産分割協議が長期化している中、ご自身の「実家の持分」のみを他の方へ無償または低額で譲渡する場合の税務上の注意点と、不動産の評価基準について解説いたします。
【前提】まずは「法定相続分での共有登記」が必要
遺産分割協議が成立していない状態でご自身の持分だけを第三者(他の相続人)へ譲渡するためには、前提として「法定相続分による共有名義の登記」を行う必要があります。
これは、「とりあえず法律で定められた割合で、相続人全員の共有状態にする」ための登記手続きです。この行為は財産の「保存行為」に該当するため、他の相続人の方々の同意や実印・印鑑証明書等は不要で、ご自身の単独申請で行うことが可能です。
この手続きによってご自身の持分を登記簿上で明確に確定させた後、お母様へ「持分移転登記」を行うという2段階のステップを踏むことになります。その上で、税務上の取り扱いは以下のようになります。
1. 無償で譲渡する場合(贈与の扱い)
ご自身の持分を無償(タダ)で譲渡する場合、税務上は「贈与」として扱われます。財産を手放すご自身に税金はかかりませんが、譲り受けた側(お母様)に対して贈与税が課される可能性があります。
- 評価の基準:【相続税評価額】
贈与税を計算する際の基準となるのは「相続税評価額」です。土地は路線価方式や倍率方式(おおむね市場価格の8割程度)、建物は固定資産税評価額(毎年送られてくる納税通知書に記載の金額)を用いて計算します。
2. 多少の金額で譲渡する場合(低額譲渡の扱い)
無償ではなく、いくらかの金銭を受け取って譲渡する場合は「売買」として扱われます。ただし、親族間において一般的な市場価格よりも著しく低い金額で譲渡した場合は「低額譲渡」となり注意が必要です。
この場合、実際にやり取りした金額と本来の価値との「差額」に対して、実質的な贈与があったとみなされ(みなし贈与)、譲り受けた側に贈与税が課されるリスクがあります。さらに、譲渡したご自身に対しても、売却によって利益が生じたものとして「譲渡所得税(所得税・住民税)」が課税されるケースがございます。
- 評価の基準:【時価(実勢価格)】
著しく低い金額での譲渡(低額譲渡)に該当するかどうかの判定や、みなし贈与額を計算する際の基準は、相続税評価額ではなく、実際に市場で取引されている客観的な「時価(実勢価格)」となります。
まとめ
遺産分割協議の完了を待たずに、ご自身の家の持分だけを手放すこと自体は可能です。しかし、事前に必要となる共有登記の費用(登録免許税など)や、譲り受ける方にかかる贈与税・不動産取得税などの負担を総合的に考慮する必要があります。実際にお手続きを進められる前に、譲渡額の設定によって全体でどの程度の税金や諸費用が発生するのか、一度シミュレーションを行われることをお勧めいたします。
ご相談者様からの声
ご多忙中ご回答いただきありがとうございます。また、とても詳しいご説明をいただき、今後の進め方も理解できました。本当にありがとうございました。

